2020年8月23日日曜日

タイ「反政府デモ」若者たちが求めていること ヨーロッパ暮らしの国王に対する批判も

 

タイ「反政府デモ」若者たちが求めていること

ヨーロッパ暮らしの国王に対する批判も




タイの民主主義を祝う記念碑の前に群衆が集まり、戴冠式の礼服に身を包んだ国王の巨大な肖像の下で抗議のしるしに手を上げる――。


バンコクで8月16日に開かれた抗議デモには少なくとも1万人が加わった。政治集会に参加するのは初めてという人が多かった。投票箱よりも戦車によって動かされる、この国の政治に変革を迫ったのだ。


およそ8時間に及んだ抗議行動は2014年のクーデター以来最大のもので、街の中心部の大通りが黒い服を着た人々で埋め尽くされた。タイでは過去90年間に軍事クーデターが何度も繰り返されており、2014年の政変もそうしたものの1つだった。



厳密には違法なデモだが、警察は傍観


今回のデモは厳密にいえば違法だ。新型コロナウイルスを理由に非常事態宣言が発出されているためで、人々はデモに参加しただけで逮捕される可能性があった。ところが、警察はただ黙って見ているだけだった。


メルセデス・ベンツのショールームの後ろで何もせずに怠けている警官もいた。


7月に学生運動が発端となって広がったタイの抗議運動は、その後、どんどんと支持を広げてきている。


タイはパンデミックの猛威を免れたとはいえ、経済は大打撃を受け、何百万人という人々が失業している。


2014年の軍事クーデターを指揮した元陸軍司令官プラユット・チャンオチャ氏が今も首相として国を率いていることから、タイでは政治改革を求める声が強まっている。



「私たちの国には多くの政治的な分断がある。しかし今は立場の違いにかかわらず多くの人々が団結し、この政権の正当性に疑問を投げかけている」と、民主活動家のナダター・マハッタナー氏は語る。「ここに集まった人を見てほしい。デモにはいろいろなタイプの人たちが参加している」



政治改革を求めてデモが行われた


抗議運動のリーダーたちが要求しているのは、新しい憲法だ。現在のように軍によって書かれた憲法ではない。議会の解散も求めている。

タイでは軍や王室を批判した人が行方不明になったり、殺害されたりする事件が相次いでいるため、彼らは人権の保護を訴えている。目的が達成されるまでデモを続ける、と言う。


「私たちは国を憎んでいるわけじゃない。プラユット・チャンオチャ、あなたを憎んでいる」。15歳の学生ベンジャマポーン・ニバスさんは、ほかの人たちといっしょにステージに立って、こんな童謡の替え歌を歌った。「独裁なんか欲しくない」。


16日のデモは、タイの絶対王政を終わらせた1932年の無血革命(立憲革命)を記念して建てられた民主記念塔の前で行われた。

現在のタイ王国は立憲君主制だが、抗議運動の一部指導者は、立憲君主制にもとる行為に及んだとして王室を非難している。



1年の大半をヨーロッパで過ごす国王


マハ・ワチラロンコン国王はタイにいることが少なく、1年の大半をヨーロッパで過ごしている。国王は財政と軍隊に対する影響力を強め、王室の財源と国軍の重要部隊を自らの支配下に置くようになった。


8月前半に行われたデモで、抗議者の一部は王室の権力に歯止めをかけるよう訴えた。不敬罪が存在し、王室を批判すれば最長で15年間収監される恐れのあるタイでは異例の出来事だ。

その後、当局はデモ指導者に対し、演説で王室に言及しないよう圧力をかけた。


しかし16日のデモが夜になっても続くなか、労働法、学生の髪型、同性愛者やトランスジェンダーの権利についてのスピーチが終わると、若き人権派弁護士のアノン・ナムパー氏がステージ上で当局の要請に公然と反旗を翻した。


その前から民主記念塔の白い表面には、あるハッシュタグがレーザー光で映し出されていた。「どうして王が必要なのだろうか?」とタイ語で問いかけるハッシュタグだ。



アノン氏は、憲法に縛られることなく人々の上に立つ王室ではなく、「タイ社会に寄り添う王室を見るという最大の夢」に触れつつ、当局が「私たちに夢を見るのをやめるよう言ってきた」とデモ参加者に向けて語った。




4人目の妻は「将軍」に


デモは、2019年の戴冠式の際に撮影された国王の大きな写真の下で行われた。


国王はこの戴冠式で重さ16ポンド(約7.2キログラム)の金の王冠と巨万の富を正式に受け取り、世界で最も裕福な王族の1人となった。


整然と並んだ抗議者の列の上には、国王の4人目の王妃となったスティダー・ワチラロンコン・ナ・アユタヤ王妃が軍服姿で写った特大写真もあった。スティダー王妃はタイ国際航空の元客室乗務員。その後、国王の護衛部隊の責任者となり、将軍という軍事的な地位を与えられている。


16日には王室擁護派によるカウンターデモも行われたが、参加者は少なかった。


抗議行動が始まる前から、タイの治安部隊は声を上げそうな者に嫌がらせを始めていた。アノン氏は7日に扇動の容疑で逮捕されている(編集部注:同氏は19日にも再び逮捕された)。アノン氏ともう1人の活動家はさらに、不敬罪の告発にも直面している。


16日早朝、昨年の選挙前に政党を解散させられた野党政治家のポンサック・プシサクル氏は、飼い犬の鳴き声で6人の私服警官が自宅に押しかけたことに気づいた。私服警官は集会を前に、同氏を脅しに来たのだという。


「私はこういうのに慣れている」とポンサック氏は言った。「だが、若者や彼らの親や家族の今後を考えると心配でならない」。

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